近年、企業活動において重要なキーワードとなっている「ESG投資」。経営者やCSR、サステナビリティの担当者にとって、ESGへの対応は競争力を高めるだけでなく、持続可能な未来を築くカギともいえます。
本記事では、ESG投資に関する基礎知識からメリット、課題、具体的な事例、さらに今後の動向までをわかりやすく解説していきます。
目次
ESG投資とは
ESG投資は、企業が環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の視点を投資判断に組み込むアプローチです。従来の投資では、主に財務的な指標による短期的な収益性が基準とされていましたが、ESG投資は、それに加えて企業が持続可能な社会づくりにどれほど貢献しているかを重視しています。企業が社会課題解決や持続可能な未来に向けて積極的に行動していることが投資家から評価される仕組みです。
■環境(Environment)
温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの活用、資源管理、生物多様性の保護など、環境負荷を軽減し持続可能な地球を目指す取り組みを評価します。
■社会(Social)
ダイバーシティ推進や労働環境の改善、地域社会への貢献など、人々の暮らしやコミュニティに配慮した活動を評価します。従業員や顧客、ステークホルダーへの対応が重要視されます。
■ガバナンス(Governance)
取締役会の構成、リスク管理体制、コンプライアンス遵守など、適切な経営管理と透明性を担保する仕組みを評価します。ガバナンスの健全さは企業の長期的な安定につながります。
SDGsとの関係性
SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年に国連が採択した、2030年までに達成を目指す17の目標と169のターゲットを含む国際的な行動指針です。SDGsは、政府や国際機関、個人、企業に至るまで、すべてのステークホルダーが取り組むべき目標を示しています。企業は自社の事業活動を通じて持続可能な社会への貢献を図ることが求められており、これらの目標を経営方針やCSR活動に取り込む動きが広がっています。
一方で、ESG投資は投資家の視点から企業活動を評価するフレームワークです。SDGsが「達成すべき目標」を示す行動指針であるのに対し、ESG投資はその目標達成度を評価し、投資判断の基準とするものです。
具体的には、SDGsが企業の「行動」や取り組みの方向性を示しているのに対して、ESG投資はその企業がSDGsに沿った活動を行い、成果を示しているかを評価します。言い換えれば、SDGsは「何を目指すべきか」を明確にし、ESG投資は「目指すべき方向に進んでいるか」を測る投資家目線の指標といえるでしょう。
■関連記事:SDGsの達成に向けて私たちにできることとは?17の目標や取り組み事例を紹介
ESG投資が注目されている理由

ESG投資の注目される背景にはさまざまな要因がありますが、その中でも特に影響を与えている3つの理由について紹介します。
環境問題への優先度が高くなっている
気候変動や資源の枯渇といった地球規模の課題が深刻化する中、環境問題への対応は企業だけでなく投資家にとっても無視できないテーマとなっています。再生可能エネルギーの利用や温室効果ガス排出の削減など、環境負荷を低減する活動を積極的に行う企業は、リスクを軽減しつつ持続可能な未来に貢献する姿勢が評価されています。
この流れの中で、環境への取り組みを重要視するESG投資が急拡大しています。投資家がこうした企業を支援することで、環境問題解決の動きを加速させるという好循環が生まれています。
PRI(責任投資原則)の普及
ESG投資が注目を集める背景には、国際的な責任投資の指針である「PRI(Principles for Responsible Investment)」の普及も関係しています。2006年に国連が提唱したPRIは、投資家が環境、社会、ガバナンスに配慮した責任ある投資を行うための6つの原則を定めています。この原則に基づき、投資プロセスにESG視点を統合することが推奨されています。
■PRIの6つの原則
- 投資判断にESG要素を組み込む
- 投資先企業にESG課題への取り組みを促す
- ESGの実践を投資活動に反映する
- ESGに関する情報開示を促進する
- 実践と知識を共有し共同で取り組む
- 投資活動の成果を報告、説明する
このPRIの理念に賛同する投資家が増加しており、今や世界中で何千もの投資機関がこの原則を採用しています。PRIの広がりによって、企業もESGに真剣に取り組むよう求められており、これがESG投資の加速につながっています。
参考:PRI「責任投資原則とは何ですか?」
規制や国際的な枠組みの強化
SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定など国際的な枠組みが、企業の行動を変えつつあります。これらの規制や協定は、環境や社会、ガバナンスへの具体的な取り組みを求めるものであり、企業に対して持続可能性を重視した戦略の導入を促しています。
この動きを受けて、投資家はESGに適応した企業を選定することで規制リスクを回避しつつ、長期的な成長を目指しています。世界的な規制強化は、企業の活動と投資のあり方を大きく変え、ESG投資の普及に拍車をかける大きな要因となっています。
ESG投資の種類

ESG投資には、さまざまな手法があります。以下に代表的なESG投資の種類について具体的に説明します。
ネガティブスクリーニング
ネガティブスクリーニングとは、投資対象企業の中から特定の基準に合致しない企業を除外する手法です。例えば、環境に悪影響を与える産業(化石燃料や石炭の採掘)、人権侵害を行っている企業、武器・タバコなどの社会的に問題視されやすい商材を扱う企業がスクリーニングの対象となることが多いです。この手法は、倫理的な投資を重視する投資家に特に支持されています。
ポジティブスクリーニング
ポジティブスクリーニングでは、社会や環境にポジティブな影響を与える企業を積極的に選んで投資する手法です。例えば、再生可能エネルギーを活用する企業や、労働環境の改善に注力している企業、地域社会への貢献度が高い企業が対象となります。この方法は、企業の好事例を支援することで、より良い社会づくりに貢献しようとする考え方に基づいています。
国際規範スクリーニング
国際規範スクリーニングは、国際的な取り組みや基準に照らして投資対象を選定する手法です。SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定、ILO(国際労働機関)の基準などに準拠している企業を評価します。これにより、世界的に認められた目標や規範を達成しようとする企業を支援し、グローバルな課題解決に寄与する投資を目指します。
ESGインテグレーション
ESGインテグレーションは、企業の財務分析とESG分析を統合して投資判断を行う手法です。従来の投資では財務指標のみが重視されましたが、この方法では環境や社会、ガバナンス要素も同様に考慮されます。例えば、環境問題への取り組みが長期的な収益に影響すると見込まれる場合、その企業を投資対象として選定します。この手法は、ESGの視点を財務的な収益性とバランスよく組み合わせる点で魅力的です。
サステナビリティ・テーマ投資
サステナビリティ・テーマ投資は、「持続可能性」に関連する特定のテーマに焦点を当てた投資手法です。具体的には、再生可能エネルギー、電気自動車、クリーンテクノロジー、水資源管理などの分野に特化して投資が行われます。この方法は、投資を通じて環境や社会へのポジティブな変化を後押しする点で、環境志向の投資家に人気が高い手法です。
企業エンゲージメント
企業エンゲージメントとは、投資家が企業との対話を通じて、ESG課題への取り組みを促進する方法です。投資対象企業に対して時には株主として、持続可能な経営やガバナンス改善を働きかけます。このアプローチは、直接的な資金供給だけでなく、企業の長期的な変革を促すことを目標としており、影響力が大きいといわれています。
企業がESG投資を意識するメリット
ESGへの取り組みは単なる慈善活動ではなく、企業の価値向上や持続的な成長を支える重要な要素となりつつあります。以下で、企業がESGに取り組むことで得られる主なメリットについて紹介します。
資本コストの低下と投資家からの評価向上
ESG投資を意識することで、企業は資本市場でのリスクを低減し、資本コストを引き下げることが可能です。ESG基準に基づく透明性やリスク管理を強化している企業は、安定した運営とポジティブな社会的イメージを築きやすく、資本を調達する際に有利な条件を得られる可能性があります。
また、責任ある投資を重視する機関投資家や個人投資家が増加している現状では、ESGへの真剣な取り組みが企業の市場価値やブランド評価を向上させる大きな要因となっています。
長期リターンの最大化
ESG投資の意識は、企業の財務面においても重要なメリットをもたらします。持続可能な経営方針を採用した企業は、効率的なエネルギー活用や資源管理によるコスト削減を実現し、収益性を高めることができます。また、従業員満足度や労働環境の改善は、企業の生産性アップに直結し、さらに安定した業績を確保するための基盤となります。
規制違反や企業不祥事を回避するためのガバナンス強化も、長期的な事業の安定性を支える重要な要素です。これにより、短期的な交渉のみに依存して収益を追求するのではなく、持続的な成長を目指す方向へ転換することで、企業は長期的な利益を最大化することができます。
市場での競争優位性
競争が激化する市場において、ESGを意識することは、他社との差別化を図る重要な戦略となります。例えば、環境配慮型の商品やサービスを提供することで、環境意識の高い消費者からの支持を得られるだけでなく、規制やトレンドによるビジネスの影響を早期に回避することができます。
また、企業が倫理的な側面や社会課題に取り組んでいることは、顧客やビジネスパートナーの信頼を引きつける要素となり、競争力強化につながります。このように市場での競争優位性は、ESG要素を取り入れる企業にとって、魅力的なビジネス戦略のひとつです。
社会的信頼の獲得
企業がESG投資を意識することで、ステークホルダーとの信頼関係を強化し、社会的信頼を獲得することができます。現代の消費者や投資家は、単なる製品の品質だけではなく、企業が社会的課題にどのように取り組んでいるかに注目しています。環境保護への取り組みやコミュニティへの貢献、多様性や公平性の推進といった活動は、企業の社会的責任を果たす具体的な証拠となり、信頼を築く大きな要因となります。
社会的な信頼を獲得した企業は、危機的な状況でも支持を得やすく、長期的な事業継続性を確保しやすい土台を築くことができます。
企業がESG経営を推進する際の課題や問題点

企業のESG経営が注目される一方、その推進には多くの課題や問題点が伴います。これらの課題は、企業がESGを単純に採用するだけでなく、持続可能な形で成功させるために克服する必要があります。以下は、企業がESG経営を推進する際に直面する主な課題や問題点について解説します。
コストと資源の負担
ESGへの取り組みは、しばしば初期投資や運用コストが高額になることがあります。環境負荷を低減する取り組み(例:設備の改良や再生可能エネルギーの導入)、労働環境の改善、多様性推進プログラムなどは長期的なリターンを目指すものですが、短期的には財務的な負担を伴うことがあります。
また、中小企業にとっては、ESG活動を展開するための人的資源や専門知識が不足していることが課題となり、大企業に比べて取り組みを進めることが難しい状況もあります。
ESG基準の多様性と不透明性
企業がESG経営に取り組む際、各国や業界によって異なるESG基準に対応する必要があり、統一的な指標がないことが問題となっています。例えば、環境については「カーボンニュートラル」や「再生可能エネルギーの利用」など多くの指標が存在し、社会面では多様性(DEI)や地域社会への影響が評価ポイントとなりますが、これらの指標の適用方法が統一されていないため、どこに重点を置くべきかが曖昧になることがあります。
このような基準の不透明性や多様性により、企業は方向性を見誤る可能性があり、投資家とのコミュニケーションやステークホルダーとの関係構築が難しくなることがあります。
日本におけるESG経営
近年、日本企業におけるESG経営の進展が加速しています。特に、大手企業を中心に環境負荷軽減を目的とした具体的な取り組みが活発化しています。例えば、再生可能エネルギーの導入や、サプライチェーン全体における環境対策の強化が挙げられます。これらの活動は、企業の競争力向上だけでなく、社会課題の解決に寄与するものとして注目されています。
また、企業がESGへの対応を促進する背景には、国内外の機関投資家の影響が大きく、特にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)によるESG投資の拡大が企業行動の変化を後押ししています。さらに、持続可能な社会を志向する最新技術の導入や、国際基準に準じた情報開示の充実化も進められています。日本ではまだ課題が残るものの、経済全体で持続可能性を重視する姿勢が広がりつつあり、ESG経営は多様な分野での存在感を増しています。
企業のESG経営取り組み事例
ESG経営は、持続可能な社会の実現を目指すため、世界中の企業が積極的に取り組んでいる分野です。ここでは、ESGへの企業の取り組み事例を紹介します。
ネスレ
世界最大級の食品・飲料会社であるネスレは、環境負荷の軽減や持続可能な食品生産を目指してESG経営を積極的に推進しています。ネスレは2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標としており、そのための具体的な行動計画を「Net Zero Roadmap」として発表しています。
このロードマップには、排出量削減の実現を支援するための事業全体の取り組みが包括的に含まれています。主な活動として再生可能エネルギーの導入や原材料の持続可能な調達、製品パッケージの変更、サプライチェーンの脱炭素化などに取り組んでいます。
参考:Nestlé Global「Our road to net zero」
アディダス
スポーツ用品メーカーのアディダスは、環境保護、社会貢献、そして強固なガバナンスを中心としたESG経営に注力しています。環境面では、海洋プラスチック廃棄物を再利用した「Parley Ocean Plastic」製品や、2030年までのCO2排出量50%削減、カーボンニュートラル達成を目標に掲げています。社会面では、公平な労働環境を推進し、ジェンダー平等や多様性・包摂性(DEI)の促進に取り組むほか、スポーツを通じたコミュニティ支援を行っています。ガバナンス面では、倫理的経営や透明性確保を重視し、ESG活動の進捗を公開しています。これらの活動により、環境負荷を軽減しながら社会的価値を創造し続けています。
参考:アディダス「サステナビリティについて」
まとめ
ESG投資は、環境、社会、ガバナンスの観点から持続可能な社会と経済の発展を目指す重要な取り組みです。企業にとっては、資本コストの低下、長期的な収益の最大化、市場での競争優位性向上、社会的信頼の獲得など、数多くのメリットがあります。一方で、課題や問題点として、具体的な目標設定、情報開示の整備、実効性の高い施策の構築が求められています。
日本でもESG経営の取り組みが広がり、機関投資家の影響や国内外の事例を参考に、企業の行動変革が進んでいます。持続可能性を重視した経営は、社会的責任の遂行だけでなく、企業価値の向上につながるため、今後もますます重要視されるでしょう。
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