近年、地球温暖化や資源枯渇、生物多様性の喪失など、環境に関する深刻な課題が世界規模で注目を集めています。そして、これらの問題に対する持続可能な解決策として、「環境保全」が重要なキーワードとなっています。特に企業にとって、環境保全は単なるCSR(社会的責任)に留まらず、自社の競争力やブランディングを強化するための重要な戦略の1つ ともいえます。
本記事では、環境保全の基本的な概念から、日本や世界で進められている具体的な取り組み、さらには企業や個人が実践できる方策についてわかりやすくまとめています。
目次
環境保全とは
環境保全とは、自然環境を守り、持続可能な社会を実現するために、地球規模で行われるさまざまな取り組みを指します。環境保全を意識した活動を進めることは、地球の健康を守り、未来世代にも豊かな生活環境を残すために欠かせないものです。
企業においては、環境保全は単なるCSR(企業の社会的責任)の一環に留まらず、持続可能性を向上させるための経営戦略として活用されるべきものです。企業活動のあらゆる側面で環境保全の観点を組み込むことで、環境への影響を最小限に抑えるだけでなく、企業価値を高めることが可能となります。
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SDGs(持続可能な開発目標)と環境保全の関係性
2015年に国連が採択した持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに「誰一人取り残さない」世界を実現することを目的にした包括的な17の目標から構成されています。この中で特に環境保全に密接に関連する目標には以下が含まれます。
- 目標6:安全な水とトイレを世界中に
- 目標13:気候変動に具体的な対策を
- 目標14:海の豊かさを守ろう
- 目標15:陸の豊かさも守ろう
SDGsは環境保全を進めるための指針であり、特に企業が環境課題に取り組む際には重要な目標となります。SDGsと環境保全は密接に関連しており、これを活用することで企業活動はより持続可能なものとなります。
■関連記事:SDGsの達成に向けて私たちにできることとは?17の目標や取り組み事例を紹介
環境保全の主な取り組み(施策)

環境保全の取り組みは、個人、企業、政府が協力して進めるべき持続可能な社会への重要なアプローチです。特に農業や産業、地域活動を通じて行われる施策は、環境問題への対応と未来世代への責任を果たすための具体的な行動として広がりつつあります。以下では、代表的な環境保全の取り組みについて解説します。
環境保全型農業
環境保全型農業は、自然環境への負荷を減らしつつ、持続可能な農業を実現する取り組みを指します。従来型農業が生態系の破壊や土壌劣化、化学肥料や農薬による環境汚染を伴うことがあったのに対し、環境保全型農業は地球環境と調和しながら効率的に農産物を生産する仕組みを構築します。
環境保全型農業には「全国共通取組」と「地域特認取組」の2つがあります。
全国共通取組
全国共通取組としては以下があります。
■ 有機農業
化学肥料や農薬を使わず、有機肥料や自然の力を活かして作物を育てる方法です。有機農業は生物多様性の保護、土壌の劣化防止に寄与し、環境への配慮も高いとして注目されています。
■ 堆肥の施用
動植物由来の堆肥を使用することで、土壌に必要な養分を補いながら環境汚染を防ぎます。堆肥は、土壌の物理的・化学的特性を改善し、生態系の持続可能性を高めます。
■ カバークロップ(緑肥)
作物の生産期とそれ以外の期間に、植物を育ててその後土壌にすき込む方法です。カバークロップは、土壌流出の防止や土壌の養分補充に効果を発揮し、農業と環境保全の両立を目指します。
地域特認取組
次に、地域によってはさらに特定の環境課題に対応するための取り組みがあります。一部を紹介します。
■ リビングマルチ
作物の根本に緑肥や草を植えてそのまま維持する農法です。これによって土壌の乾燥防止や雑草の抑制、生態系の保護につながります。
■ 草生栽培
果樹園などで草を栽培しながら作物の生産を行う方法です。草が土壌流出を防ぎ、有機物を供給することで農地の環境を保全します。
■ 長期中干し
稲作で実施される方法であり、水稲の成長期間中に水を一時的に干すことで土壌の通気性を改善し、環境の負担を減らします。
■ 江の設置
江(え)とは田畑の最後に水を排出する場所を指しますが、その設置により余分な水を調整し、環境負荷を抑えることが可能になります。さらに、水質改善と生態系の保護にも効果があります。
環境保全協定
環境保全協定は、地域の環境を守るために地方自治体、企業、住民、NPOなどが共同で取り組むべき目標や施策を取り決めた約束や合意のことです。この協定は、環境問題の解決を地域単位で進めるための枠組みを提供し、参加者が具体的な環境保全活動を実践するための指針となります。地域ごとの課題に応じた協定を結ぶことで、柔軟かつ効果的に環境保全を進めることが可能です。
環境保全協定は地方自治体や企業が単独で行う施策に留まらず、住民や地域社会を巻き込んだ共同の取り組みを促進する点が特徴です。このような協定に基づいた活動は、環境負荷の軽減に加え、地域の持続可能な発展を支援する重要な役割を果たします。
グリーン成長戦略
グリーン成長戦略とは、環境問題への対応を単なる負担ではなく、経済成長の新しいエンジンと捉える政策や取り組みのことを指します。環境保護や脱炭素社会の実現を目指しながら、環境技術の革新や産業構造の転換を通じて、雇用創出や経済発展につなげる戦略です。
日本では2020年に政府が「グリーン成長戦略」を策定し、2050年までのカーボンニュートラル(実質的な温室効果ガス排出量ゼロ)を目標に掲げています。この戦略は、環境保護と経済発展が両立できる社会を目指すものであり、世界中で注目されています。
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生物多様性条約
生物多様性条約は、地球上のあらゆる生物とその生息環境を保護し、持続可能な利用を促進するための国際的な枠組みです。1992年にリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」で採択されました。この条約により、(1)生物多様性の保全(2)生物多様性の構成要素の持続可能な利用(3)遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分が目標として掲げられています。
生物多様性条約には194の国や地域(2025年3月時点)が加盟しており、世界規模での協力が進められています。この条約は、生物多様性だけでなく、人間の生活や経済活動にも深い影響を与えます。
参考:外務省「生物多様性条約」
企業の環境保全の取り組み事例

多くの企業が持続可能な社会の実現に向けた環境保全活動を積極的に進めています。以下では企業の取り組み事例を紹介します。
三菱電機株式会社
三菱電機株式会社では、地域密着型の環境保全活動として「里山プロジェクト」を展開しています。このプロジェクトは、地域の生物多様性を保護するとともに、人と自然の共生を目指した取り組みです。
里山は自然と人との関わりが生まれる場であり、生物多様性を支える重要な地域とされています。三菱電機は全国各地の里山で地域住民や従業員と協力し、森林管理や植樹活動を行っています。また、生態系を回復させる取り組みの一環として、里山に生息する希少種や伝統的な動植物の保護を進めています。
参考:三菱電機株式会社「地球環境との共生 里山保全プロジェクト」
スターバックス
スターバックスは「C.A.F.E.プラクティス」という独自の基準を通じて、倫理的かつ持続可能な方法でコーヒー豆を調達しています。このプログラムは、環境保全、生産者の生活の質の向上、そして高品質なコーヒー豆の調達を目的としています。
C.A.F.E.プラクティスでは、コーヒー農園が環境への配慮や労働環境を改善する取り組みを評価し、高い基準を満たす農園からコーヒー豆を購入します。また、コーヒー生産が生態系への負荷を軽減する形で行われるようになっています。
参考:スターバックス「スターバックスが掲げる、コーヒーに関する環境目標」
個人ができる環境保全の取り組み

個人が生活の中でできる、具体的な環境保全の取り組みについてご紹介します。
節電・省エネ
日常生活での無駄なエネルギー消費を抑えることは、環境保全に直結します。例えば、エアコンの適切な温度設定や電気機器の待機電力をカットするといった方法があります。また、省エネ性能が高い家電や照明器具(LED電球など)を選ぶことで、エネルギー消費を大幅に削減できます。
さらに、太陽光発電を導入することで、自宅で使用する電力を再生可能エネルギーから供給することも可能です。節電に取り組むことで、地球温暖化原因となるCO2の排出量も削減できます。
食品の無駄を減らす(フードロス削減)
食品の無駄を減らすことも、環境負荷を軽減する効果が高い取り組みです。フードロスは、食品が捨てられる段階で生産や輸送にかかる資源を無駄にするだけでなく、廃棄物処理時に大量のCO2を排出します。
個人ができる改善策として、買い物の際に過剰な購入を避けて必要な量だけを購入すること、期限切れ間近の食品を優先的に消費すること、作りすぎた料理を冷凍保存するなどがあります。また、家庭で生じる食品廃棄物を減らすことで、持続可能な食生活を実現することができます。
リユース・リサイクルを推進する
使わなくなった衣類や家具を必要としている人や団体に寄付したり、フリマアプリを活用して販売したりすることが挙げられます。また、ゴミの分別を徹底し、リサイクル可能な資源(ペットボトル、缶、紙など)を正しく回収することで、廃棄物を減らすことができます。
一度の使用で捨ててしまう使い捨てプラスチック製品を避けることも重要です。できる限りリユース・リサイクルすることで、資源の無駄遣いを防ぎ、環境保全への貢献につながります。
環境に優しい移動方法を選択する
移動手段を見直すことも、環境保全に重要な役割を果たします。自動車の利用は、温室効果ガスの主な原因の1つであるCO2を大量に排出します。そのため、徒歩や自転車などエネルギーを使わない移動方法を選ぶことでCO2削減に効果があります。
また、公共交通機関を活用することも、自動車利用に比べて環境負荷を軽減します。さらにEV(電気自動車)やハイブリッド車などの環境性能の高い車を選ぶことも有効な手段です。日常生活での移動方法を見直すことで、地球環境を保護する活動に貢献できます。
印刷業界の環境保全取り組み事例
印刷業界である当社(研文社)も、環境保全活動に積極的に取り組んでいます。その具体的な例として、「環境配慮型プリントサービス」を提供しており、環境への負荷を最小限に抑える印刷プロセスを進めています。このサービスは、印刷物の生産工程におけるCO2排出量を算出し、その排出量を実質ゼロ化することで、顧客がカーボンニュートラルに貢献できる仕組みを提供しています。
研文社の全ての工場は再生可能エネルギーを利用した「カーボンゼロプリント工場」として稼働しており、Scope 1とScope 2のCO2排出量が実質ゼロとなっています。
事業規模は大手と比べて限定的ながら、私たちは専門領域での具体的・継続的な実装を通じてサプライチェーン全体のCO2削減に貢献していきます。
まとめ:地球規模の課題解決につながる環境保全
環境保全は、地球温暖化や資源枯渇、生物多様性の喪失など、世界規模の課題解決に不可欠な取り組みです。政府や企業だけでなく、私たち個人にできる小さなアクションの積み重ねが、持続可能な未来への道を切り拓きます。また、企業の取り組みとして、カーボンニュートラル対応を進めることは、顧客価値の向上にもつながります。
当社では「環境配慮型プリント」を通じて、印刷物の生産工程におけるCO2実質ゼロ化を実現し、お客様とともに持続可能な社会を目指しています。
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