「伝わるデザイン」を考え抜いて
さまざまな要件の中で
研文社の制作物には社内でデザイン・制作されているものと、外部でデザイン・制作されているものと大きく分けて2種類の制作物があります。私の仕事は社内で制作されるデザイン案件に対し、一定のクオリティを確保することです。とはいうものの、弊社はさまざまなクライアントとお付き合いがあり、求められているデザインの方向性やテイストも多種多様です。そうした多くのニーズの中で「一定のクオリティを確保する」とはどういうことなのでしょうか。まずはそのお話をしたいと思います。
アートディレクター東村 一洋
デザインの本質について
例えばあるキャンペーンの告知チラシを制作する場合、まず前提としてキャンペーンを実施する企業のデザイントーン&マナーがあります。そして、そのキャンペーンが対象としているターゲット(顧客)の嗜好があります。年齢や性別、子どもなのか大学生なのか会社員なのか主婦なのか。あるいはその全部なのか。それを考えると、自ずと方向性は絞られてきます。逆にいうと、「これは無いな」という「不正解」が見えてくると言ってもいいかもしれません。小学生をターゲットとしたキャンペーンに高級感やセクシーさは必要ありませんし、大人の女性を狙ったキャンペーンにフリガナを多用する必要はありません。このターゲットの属性や嗜好を掴んだ時点で個人的には「半分」だな、と思っています。デザインの半分はできた、ということです。もちろん残りの「半分」が大変なわけですが…。
基準となりえるもの
この先の「半分」に関しては企業秘密、というのは冗談ですが、具体的な作業の話(メインカラーと補色、フォントは何を選ぶか、イラストや写真のテイスト等々)になりますので割愛します。大切なのはこの段階でもやはりお客さまのニーズを一番に考えることであり、それこそがデザインの「正解」だと私は思っているのです。 世の中のトレンドもありますし、私の個人的な趣味・嗜好もあります。それを軽んじているのではないのですが、それらはやはり動的なものであって確固とした基準になりえるものでないと思います。言い換えるならば、明日明後日変わってしまうかもしれないものに準拠した不安定なデザインをお客さまに提案することはできない、ということです。趣味性よりも効率性を私は考えます。